思えば、あの時全てが



















十の





















夏休みの事
聞いていたので、知っていたのですが・・・・・。


カッコン。


突然の再会。
二人だけの畳の空間に獅子脅しの音が響いた。
なんてえか、あれだ。

テレビで見た、「お見合い」のシーンのようで・・・・・・。

目の前にはアンナ。今日は黒いワンピース着用。
座卓をはさんでオイラ。
座布団の上に得意じゃない正座をして。

自分ちなのに、オイラは妙に緊張していた。
みーんみんみんみーんとしつこく蝉が鳴いている。
そんな季節感たっぷりのBGMに、


「ちょっと」

突然アンナの鋭い静かな声が響いた。
オイラはぎっくりして背筋をのばす。

「お・・おお、何だアンナ」
「お茶入れて」

間髪入れずにアンナが言った。
表情など微塵も崩さずに。

「へ」

「だからお茶。早くして」

淡々とアンナは言い、オイラは短い返事と同時に立ち上がった。何か怖かったのだ。




オイラがいいなずけのアンナに会いに行ったのは去年の事。
人生で初めて、そしてもしかしたら最大の出会いと別れを経験した冬。
あの時のことを思い出すと、今もオイラの中には雪がふる。

台所に向かって廊下を歩いていたら、ちょうどたまおが黒いお盆に茶と茶菓子をのせて歩いてきた。
それを受け取って、オイラは廊下を引き返す。

少しだけ足が重いのは気のせいじゃない。
あの日確かにヒトメボレしたはずのアンナが、今日のオイラは怖くてたまらなかった。
何か違う。空気が違うんよ・・・。

・・・結構好きだったのにな。

オイラは突然の自分の思考に顔が熱くなるのを感じた。
心の準備をしてから、アンナの待つ部屋の前に立つ。
張り詰めた空気の中に飛び込むことを覚悟しつつ、深呼吸。

ふすまを少し足で、続いて盆を持った手の甲で押して開けた。
するとアンナが音に反応して、すいっとこっちを向いた。
その顔に、こっちを見る目に、少し揺れた髪の毛に、どきっと胸が鳴った。
それで(あ、今もだ)とだけ思い直した。


茶と茶菓子を出すと、アンナはおとなしく食べはじめた。
ようやく空気がほどけた気がして、オイラはようやく正座をやめ、早くも固まりかけた足を伸ばした。
しかし。
途端にアンナが口を止め、こっちをじいっと睨んできた。
オイラの額には冷や汗がじわりと浮かぶ。

「あんた足っ」

「うぃっ」

条件反射に近く座りなおす。
アンナは背筋をしゃんと伸ばして、また茶菓子のせんべいをかじりだした。

ぱりぱりぱりぱりみーんみーんぱりぱりぱりぱりみーんみーんみーん

オイラはこの緊張感に耐え切れなくなり、(ついでに足のしびれにも耐え切れなくなり)
ついに口を開こうとした時、

「ねえ」

またしても鋭いアンナの声に、背筋がピンと伸びる。

「あんた、ちゃんと真面目に修行してんの?」

「は?」

最初の質問がそんな内容で、オイラはまた呆ける。それを見たアンナは顔をしかめた。

「だから!見たところ大して成長してない気がするんだけど?修行してんでしょうね」

「あ・・?ああ、もちろん、修行なら毎日じいちゃんと・・」

「・・・ぬるいわね」

ぼそりとアンナが呟いた。


その言葉にぽかんと口を開けてから、1時間後。


中庭にて。
オイラはガクガク震える膝を押さえつつ必死に電気イスをしていた。
ばあちゃんが通りかかって、オイラ達の様子を見るや、ハッハと笑って部屋に入っていった。

「あ・・・アンナ・・・っ、もう、そろそろ・・・」

「おバカ。まだ一時間もたってないわ」

「そんな・・・」

「口を動かす余裕があるなら、2時間追加」

「うぇえっ!?」

しかしそれから20分後、慣れない苦行にオイラの膝は限界を迎え、派手に倒れた。

「いってえ〜・・・」

打ち付けたケツをさすろうとして、オイラは背後にものすごい悪寒を感じた。次の瞬間、

ゴン。

鈍い音が響いた。

「!?」

痛みというか、目の前の華奢な少女が与えた拳の、衝撃の大きさと驚きにオイラは言葉も出せず振り向く。
アンナが腰に手をあてて、鬼の形相で見下ろしていた。

「あんた・・・・」

目が怒りに燃えている。
その威圧感に後ずさりをする。アンナの口がゆっくり開き・・・・・・
爆発した。

「あんたねえ!!そんなことでシャーマンキングになれると思ってるの?!甘えてんじゃないわよ!!この半年一体何をしてたわけ?!」

アンナの怒号はとどまる所を知らない。

「こんなことも続けられないなんて情けない!」

最初はただただ驚いて、おびえていたオイラだが、だんだんと一方的な言葉に怒りの心が生まれてきた。
特につかれ切った足がそれを手伝った。

「お前な・・・」

「何よ!」

「いい加減にしろよ!オイラ疲れてるんだぞ!」

今まで言い合いなんてしたことのなかったオイラの口からはじめて出た反論は、そんな間抜けなもんだった。
は?とアンナが顔をしかめる。

「お前がしろって言ったから、おとなしく電気イスやってやったんじゃねえか!何で怒るんよ?!」
「あんたが根性ないからでしょう?!」
「オイラの根性がどうだって、お前には関係ねえじゃねえか!」
「関係あるわよ!あんたはあたしのダンナなんだから、シャーマンキングになってもらわないと困るのよ!」

アンナの勢いに気おされながら、オイラは口を開いた。

「じゃ、お前自分が楽したいから言ってるんか。だからオイラにこんなことさせるんか」
「は・・・何・・・・、何よそれ」

アンナの目が丸くなった。一瞬後には、視線に力を込めて続ける。

「違うわよ!何言ってんのよ!あんたねえ・・・私は、」
「違わねえだろ、結局つらいのはオイラだけじゃねえか!」

言ったら、アンナは口をつぐんだ。
反抗的な目によぎった表情までは読み取れなかった。だからオイラは続けた。

「それに、お前だってまだ候補だろ」

足の筋肉がびしびし痛い。でもオイラは立ち上がった。

「お前のダンナになるなんて、まだ決まってねえんだからな」

オイラは言い捨てると、くるりと後ろを向いて歩き出した。

「ちょ・・・っと」

アンナの声が追いかける。
ここで立ち止まったらまた口喧嘩が続く。
そう察したオイラは、呼び止めるアンナを無視して歩き続けた。

「ちょっと!待ちなさいよ!」

背中ごしに響くアンナの声。
オイラはサンダルを脱ぎ捨てて縁側から家に上がり、さらに歩調を速めた。

あっと言う間に、アンナの視界から葉は消えた。

「葉っ!」

思い切り呼ぶ。
頭の中では、戻ってこないことなんてわかっていたけど。
アンナは取り残された中庭で、もう一度呼んだ。

「葉・・・・」

しかし二度目のそれは、あまりに小さく、葉の耳にとどくことなく消えた。




どたどたと
足音を響かせながら進む。
何なんよ。
あいつ。
まさかあそこまで冷たいやつだったなんて思わなかった。
何だっていきなりこうなるんだ。意味がわからん。
何だってこんなに怒られなきゃならなかったんだ
足がいてえ。明日の筋肉痛はすでに決定事項だ。
この疲労と、アンナのあの怒りに加え、
半年ぶりの再会を少し楽しみにしちまってたこととか
怒っててもちょっとかわいいとか思っちまったこととか
よくわからん苛立ちが頭を占めていって。
とにかく歩く。
どっか行こう。そうだ山に行って昼寝でもしよう。
夕飯まで逃げちまおう。
あんな奴にもう会いたくねえ。






・・・・


いやしかし許婚だしな・・・
さすがにそんな訳にはいかんよな・・・
会いたくねえっていっても、そりゃ無理だしな・・・・

あいつもオイラに会いに・・・はるばるここまで来てんだよな・・・

それにやっぱ怒らせちまったのはオイラにも悪いとこがあったんかな・・・
いやでもすんげえ疲れてるぞ、オイラ。
黙って聞いてやってたのに、この仕打ち、
オイラはこんなに足だって痛えし汗だってかいて・・・


・・・・

あいつ呼んでたよな、オイラの事。
そう言えば少し、傷ついたみたいな驚いたような顔、してたよな・・・
あいつだってずっと一人だったんだもんな
言い返されてちょっと傷ついたんかな

・・・・
あいつ、・・・アンナ・・・

「この男を愛してしまった」

突如頭に響いたその声は、今も顔に熱を持たさせた。

「・・・・」

立ち止まると、ため息がもれた。
苦行の余韻でいまだ痛む太ももの筋肉を拳でトントンと叩く。
疲れた・・・・。

「・・・アンナ、かあ」

ぽつりと口から出た名前は、明らかに女子のもので、やわらかい響きをもっていて・・・・・かわいくて。
頬が熱い。
・・・・オイラおかしいぞ。

頭をがしがしかいて、深い深いため息をつく。

とりあえず、戻ろう。
まさか許したわけじゃないが、ケンカしたままってのは気分が悪い。
オイラの言い分もちゃんと伝えて、アンナの言い分も聞いて、なんとか『ワカイ』しよう。
アンナだって、そんなに長くこっちにいるわけじゃない。
せっかく会えたんだから、
いくらおっかなかろうと、仲良くやれりゃそれに越したことはないはずだ。

ぎしぎし、アンナのいる中庭を目指し、長い廊下を戻る。

「くそ・・・疲れた」

しかし修行の量を減らせとは、どんな風に交渉したものかと思い巡らせながら、よろよろ歩いた。


だが、ようやく到着した中庭に、アンナの姿はなかった。
あれ、と見回すが、アンナの履いていたサンダルが縁側の前にそろって置いてあるだけで、彼女の姿はなく。
部屋に戻ったのか、と思い付いたので、まったく世話がやける女だと一路アンナの泊まる客間に向かう。
けれど、意を決し、襖の前で声をかけ、ノックして、返事がなくて隙間から覗き込んだ室内に、アンナの姿はやっぱりなかった。

通りかかったばあちゃんに、アンナを見なかったかと聞く。
返答は、見てないよ、という一言で、オイラはそこで、すっと胸が冷えるのを感じた。

「アンナ!」

呼びながら、広い屋敷中を探し回る。
けど一向に、アンナの返事は聞こえない。
当たり前だ。置いてきたのは自分だ。
怒って隠れてしまったのか。それとも・・・
立ち止まって、振り向くと、途端にシン・と長い廊下が鳴った。

・・・この屋敷は、ちょっとばかり広すぎて。
そういえばたまおも、この家に連れてこられた頃は良く迷って泣いてた。
庭には古井戸もある。鍵の壊れた蔵もある。
まさかアンナ・・・。
いやまさか、アンナに限って。
限って・・・・・。

オイラは嫌な予感を感じながら、走り始めた。

「アンナ!どこに・・・」

座敷の襖を片っ端から開けて、開けて、前しか見てなくて、そうだ外!と踵を返した時だった。

「うっ、よ・・・っ!葉・・・ったらあ!!」

何だよ、オイラ今忙し・・・
ぐん、と腕がひっぱられた。
バランスを崩してその場に倒れた。肘と尻をしこたま打った。一体なにが・・・
顔を上げて、その顔を見て、オイラはやっと胸を撫で下ろす・・・事はできなかった。

「アンナ・・・」

やっとアンナがいた。
オイラの腕を掴んで、ぺたんと床に座って、オイラを睨みつけていた。

「あんた・・・待たないんだもの、ずっと、おい、追いかけてたのに」

途切れ途切れ、息を切らして責める。

「あたし待ってって言ってるのに」

肩が震えている。怒ってるんじゃない。たぶん違う。

「ばか、ばか・・・嫌いよ」

ぽろぽろと、
一滴ずつ落ちる涙と一緒に、言葉が次々こぼれていった。

「アンナ・・・」

ようやく、彼女を見つけても、到底安堵なんてできなかったのは、
アンナが、泣いていたので。
足の疲れも忘れるほどの衝撃で。


「あんたが、シャーマンキングになるって、あんたが言ったんじゃない」


腕を掴んだアンナの指が皮膚に食い込んで痛い。

「だから、あ、あたしはあんたのためにねぇ・・・っ」



何だよ、こいつ。

何なんよ。

意味がわからん。

何で泣くんよ。



「アンナ、・・・泣くなよ」

「あたしは、あたしに、決まってないことなんかわかってるわよ・・・けど・・・」


すすり泣きに込めた今までより一番小さく、呟いた一言。
ああ、これか?これでオイラ、泣かせちまったんか?んな、まさか・・・

「すまんアンナ」

女子ってずるい。
そんな顔されたら、もうどうしようもねえじゃねえか。

「すまん」

どうしたらいいか、わからなくて。
オイラは思わずアンナの肩に腕をまわした。
アンナのすすり泣きが肩口で聞こえる。

あ、あったかい。

細い。

何か頼りない。



それはとても、あの恐ろしいアンナからは想像できなくて。

全然強くねえじゃねえか、こいつ。


と、オイラは何故かほっとした。

アンナは思ったより小さかった。
オイラを見下ろしてる時はその身長は1.5倍〜10倍ぐらいにも感じていたのに。

それに抱いた肩も、ビンタを繰り出す手も、想像よりずっと弱い。

女子って、みんなこうなんかな。



同時に思った。



「これはオイラが守らんと」







何だアンナは、あの雪の日の、守らなきゃならないアンナからかわってないんだ。

困ったな、
守るってのは一瞬だけのことじゃねえんだな。



しかもその対象ときたらこの気の強い少女。

ため息。
それに反応したのか、アンナはオイラの肩に、痛いくらい頭を押し付けてきた。
怒ってるんだろう。


そう、この意地っ張りなアンナ。

こいつはたいへんなことになっちまったと、
オイラは思って変な笑顔を浮かべていた。
頭を指先で撫でると、アンナのすすり泣きが小さくなった。
それを見て、胸が妙にうずいた。
けどその感情の名前も、まして感情かどうかさえも知らなかった。
その時は・・・




































「遅れてすまん」

「ただいまアンナ」


守りにきたぞ。アンナ。
安堵のその表情のために。


「遅いわよ」


泣き出しそうな顔を隠したアンナの悪態の、
うつむいて震えた語尾にオイラは苦く笑った。

アンナの頭にそっと手をそわせてから、改めてハオを見上げた。
見下ろすハオの冷たい目に、オイラはユルく視線に威嚇を混ぜた。



左手にはアンナの感触がある。
サラサラの栗色の髪の感触。
生き返ったことを何より実感した、感触。





オイラが守るかんな

ずっと





その呟きを指先に込めた。






思えば

あの雪の日から

オイラはいつも、その感情だけを抱いている。










今は左手指先の温かさが、この想いの全てだった。


































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***
リク内容『ほのぼの幼い夫婦』
ほのぼのしてねえー

夢様、リクエストありがとうございました。
お待たせしました。ほのぼのじゃ・・・ほのぼのじゃないです・・・すみません。
やっぱり幼い夫婦は新鮮です。今この人達が一児の親だと思うと感慨もひとしおですね!
ではでは、リクありがとうございました。

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