禁断症状三日間。

















シガレ・トチョコ























屋上。
空に一番近い場所。
ドアもあり、床もあるのに空気は外。
開放されて限られた空間。

地上に
縛り付けられるのは人だけなんです
他はみんな自由なんです

例えば空気。詳しく煙。



だから


理解の容易いその条件反射。
厚い鉄のドアが開かれるのを聞いた3人は、一様に顔をあげ、突如屋上に現れた葉を見た。
一瞬にして背中や足の影に隠れる彼らの手。
突然の明るい外の陽に目をくらませながらも、葉はしっかりその瞬間を目撃していた。
そしてこの瞬間流れきれず残った白い煙も。

「あ・・麻倉・・・・」

言って彼らは顔を見合わせた。
葉のクラスメートである少年と、「見たことはある」少年二人。
苦笑い。
それから一人が隠していた手を持ち上げると、それを口に銜えた。
煙草だった。

いやなトコに居合わせちまったと、葉は視線をそらしながら頭をかいた。
逆の手には弁当箱がある。

昼休みがはじまってからまだ数分。
つまり中学生の身分で煙草とか吸ってるっつうかふかしちゃってる系の彼らは、4限をさぼってここでくつろいでたんだろう。
さて、どうしよう?

すると15にして喫煙者となった葉のクラスメートの男が、葉を手招いた。

帰りてえなあ・・・
と思いつつも仕方なく葉は呼ばれた方に向かった。
様子からするに危険な感じもしなかったし。

「こんにちは」

台詞のように一本調子に言われた言葉に葉もとりあえず挨拶を返そうとしたが、それを待たず少年らは言葉を続けた。

「何、麻倉くんていうの、君。武田のクラス?」
「よろしくねー。屋上好きなの?昼飯?」
「吸う?」

矢継ぎ早の質問。つまり誤魔化しと仲間意識の速攻構築。葉は差し出された煙草を見た。
銘柄なんて知らない。ただ煙草。

「いや、オイラは」
言うが、それを聞いてるのかいないのか、武田、とその仲間たちは勝手に会話をはじめた。

「やべえよ俺最近本数増えちゃって」
「金かかるよな、結構」
「じゃオマエ禁煙する?」
「したってこの前、三日で挫折したけど」

笑い声。葉もおざなり程度に笑ってみた。
そろそろこいつら行ってくんねえと、アンナが来ちまうんだけど。
こいつらとつるんでるところを見られたら、それだけで修行は倍だ。
やべえな。やべえよ。

「吸わないって決めると余計気になるじゃん?」
「三日ぶりに吸ったらマジうめーよ」
「のどにこねえ?」
「頭くらくらすんの」
「だってさ。麻倉、お前やめといて正解だったかもよ」

突然話を振られて、葉は視線を屋上のドアから武田達へ戻した。
見ると彼らは腰をあげる最中だった。
目撃者にお愛想し続けるのも面倒になったんだろう。
寝てるだけの一生徒が、教師に告げ口もしないだろうとようやく気づいたのかもしれない。

「じゃな」
「おお・・・」
「やるよ、社会勉強」

いきなり武田の仲間その1が、葉の弁当を持つ手に空きかけの煙草の箱をねじ込んだ。

「いや、いらんって・・・」

しかし口止め料となるそれを放すため手を開けば、当然ながら弁当箱も落ちる。
かくして三人の少年は屋上から姿を消し、ただ葉と、煙草の箱だけが残った。

まいったな・・・・

と思いながら弁当箱を置いて手の中の煙草の箱を見る。

英語は読めない。小さい白い箱。
パッケージは一瞬、ボブの3rdシングルを思い出させた。
中にはキレイにさえ見えるまっ白い煙草が数本残っている。
ため息をついてぐいと尻ポケットに押し込む。
アンナに見られる前に捨てなくては。

ふと下を見ると、武田とその仲間達はあからさまな痕跡を残しまくってた。
煙草の吸殻がいくつも散らばっている。
仮にもアンナとの憩いの場にこれが残ってるのはいかんだろうと、葉は仕方なく一つずつ拾いあつめた。

まさかこれまでポケットに突っ込む気にはなれず、一まとめにして握りしめ、人気のない校舎の裏がわの端に行くと、一瞬ためらってから・・・それら思い切り投げ捨てた。

煙草の吸殻はひらひら散っていく。

きっと掃除の時間に誰かが捨ててくれるだろう。
と自分に言い訳をしながら、弁当を置いた場所まで戻る。

アンナが来ねえなら先に食べちまおう。
どうせあいつどっかでまた告られて

とまで思考が進んだところで、もう一つ吸殻を見つけた。弁当箱の影になっていた。
真上に置いてしまわなくて良かったと心の底から思った。

また、拾い上げる。
それにはまだ消え入りそうな赤い火が点いていた。
煙草のにおい。
少しだけその魅力を感じた。

しかし、まさかそれを吸ってアンナに殺されようなどとは思わず、またさっきポイ捨てした地点まで行った。
手すりで火を消して、その最後の一つを投げようとしたその時、
葉はドアが開け放たれたままだということを思い出した。

振り向くと、
そこに、こっちをじっと見る自分の許婚の姿を見つけた。

急いで吸殻から手を離す。
しかしあるいはそれが余計だったかもしれないことは何となくわかった。
その条件反射と狼狽は、まるでさっきの武田と同じだったから。

「・・・葉」

よく通る嫁の声。
固まる夫。

「葉。あんた今何を捨てたの」

その声は、「何」が「なに」であったか、明らかに知っている響きをしていた。
アンナの足音がだんだんと大きくなり、葉の鼓動もつられて大きくなった。

たらりと葉の頬を汗が伝った瞬間、アンナの手が葉のポケットから煙草の箱をとりあげた。

「これは何?」

声はとても落ち着いていた。
嵐の前の海が、この上なく落ち着くがごとく。

「いや・・・違うんよ・・・アンナ、オイラは」

冷や汗に風が吹いて冷たい。

突然アンナが葉の手をとりあげた。
そして自らの鼻を近づけた。

沈黙の時間。
そして判決の時が、来た。


「・・・・・・・・・・・煙草くさい。」


直訳、つまり死刑。
言い訳なんて余地は皆無。


麻倉葉に課された刑。
修行10倍、そして何より

「煙草くさいから近づかないで。」

この一言だった。











煙草。

ただ細いそれに火をつけて
口に銜えて吸うだけの
単純で愛しい行為

ただちょっとご無沙汰するだけ
なのに
その期間、例えば三日間。
限界までの地獄の日々。















*一日目、誘惑









10倍の修行は半端なく、家についた葉はへとへとだった。
今にも倒れそうな全身をひきずってありあわせでなんとか夕飯をつくった。
疲れてたから、とても。
自分の中にそんな衝動が起こるとは思わずにいたのに。

夕飯も食べ終わり、風呂に入って一日の汗も流し、もう今日はさっさと寝ようとしていたら、ふと廊下でアンナとすれちがった。

シャンプーのにおい、自分も使ってるはずのそれが、まだしめったアンナの髪からふわりと香り、
思わず葉は振り向いた。
何気ない衝動。すでに日常の一部。

「・・・アンナ」

呼び止めて、

腕をつかんで、

引き寄せて、


軽い愛情表現を

しようと顔を寄せ

バッチン。

頬を叩かれた。

「いっ・・・!!てえ・・・・・、何だよ、アンナ」


「煙草くさい。」

すっぱりと全ての余韻を断ち切って、アンナはふんと鼻をならすと洗面所に消えた。


一度悶々としはじめたら、どうにもおさまらなくなってしまい、
葉はじんじんする頬をたまになでたりつねったりしながら、夜遅くにようやく眠りについた。











*二日目、散漫




禁止されればされるだけ余計気になるのが人間です
制止されればされるだけ溜まっていくのも人間です。

アンナと最初にキスをしてから、随分時間がたって、照れが慣れに近くなる頃。
思い立ったら行動で、いつのまにかすでに日課。

なのに今更我慢なんてできません。
とても健全なオイラ。


朝。
朝飯を食べるアンナを見てたら、その口を見てたら。
ちょっとぐらいいいんじゃねえかと思ってしまって、さりげなく肩を寄せようとしたらまた頬をひっぱたかれた。



授業中。
英語の構文を読み上げるアンナの唇を見てたら、またしたくなりました。
顔を伏せても声が聞こえるので意味がねえ。



昼休み。
二人きりの時間、もう一日我慢したぞと無理やりせまってみたら急所を蹴られ悶絶。



帰り道。
まん太と別れた後、川原の景色のいいとこで、
オイラなりにがんばってムードとか考えてみたのに、
アンナがくれたのは余裕の笑顔と10倍の修行メニューのメモ。



帰宅。
おい何でここにいるんよまん太。
アンナさんが泊まってけって泊まらないと殺すっておどすんだよ葉くんてか僕今日塾なんだけどどうしよう
本人はさっさと寝ちまって・・・・・・・・。



深夜。
なあアンナ。
オイラまん太がいたって夜這いするぞ。
ってああやめろ殴らないでごめんなさい言ってみただけです顔のかたちがかわっちまうからうわあ痛い痛いってやめてあー




就寝。
BUT寝れません。
















キス。

ただ短い導火線に火がついて
口を寄せて合わせるだけの
単純で愛しい行為

ただちょっとご無沙汰するだけ
なのに
その期間、例えば三日間。
限界までの地獄の日々。











朝が来て。
顔色悪く葉は目覚めた。
今日はできる限りアンナを見ないことにした。
絶対誘われるし、気が散るし。

朝から授業は良く寝た。
昼休みはまん太にいてもらおう。まん太としゃべって切り抜けよう。

しかし昼休み、あろうことかアンナはまん太を追い出して、葉とアンナは二人きりで向かい合った。
場所は全ての始まり、あの青空の下。
今日は少し雲が多い。まるでそれは煙草の副流煙。

コンクリートの上に腰を下ろしたアンナは、いつも通り姿勢を正してまっすぐ葉を見ていた。
相変わらずとてもキレイな少女。片手に竹刀がスタンバイされているのはともかく。

「アンナ・・・何度も言うけどな、オイラは断じて一本も」
「言い訳しないで。」

竹刀がバシンと床を打った。
ひいー

「もうやめねえ?オイラそろそろ限界だぞ」
「あら、そう」

アンナはゆったり言って、ブレザーのポケットに手を入れ、取り出した。煙草の箱だ。

「吸いたいなら吸わせてあげる」
「は?」

アンナは呆ける葉に穏やかな笑顔で煙草を差し出した。

「アンナ・・・?お前何を言ってんだ?」
「ただし」

またバシンと竹刀の音があたりに響き、葉はびくっと震えて口を結んだ。

「選びなさい。」

口角を上げてにっこり微笑むアンナ。
傾げた細い首筋を薄い色の髪の毛がさらりと彩った。

「あんたはどっちが大事なの?」

右手は煙草。
左手は修行。




禁煙、中毒、三日間。

武田があの時言っていた、煙草中毒禁断症状。


一日目、誘惑
二日目、散漫

そして三日目、限界

ああそれならオイラ良くわかる。




「ねえ、どっち?」

右手に煙草
左手に修行を持って、にっこり笑うお前

の唇を吸いたい。



その点オイラはへびいすもうかあ。



煙草は落ちた衝撃で中から飛んで散らばった。




三日ぶりの煙草がまたうまいのです
全身にいきわたるようなんです




柔らかい唇が二つ
くっついて
全身に痺れが広がります



そのまま体重をかけてのしかかれば、
いとも容易くアンナは床にころがった。



三日ぶりのキスはまた格別です


やわらかさの相乗効果はとろけそうな甘さ
膝の力が抜けてしまうのもいきわたる熱も距離ゼロの男にしかわかんないそのにおいもお前がちょっと震えるのも全部

やばいです









クラクラする




































<End>





***

あとがき

シガレットチョコらしいです。
てか口調が葉じゃない・・・・もういいよ(泣)
あたしが書くと常に何かあやしくなんのは何故
最後がフェードアウトするのも何故
微エロの境目って何処
あとポイ捨ては駄目ですね・・・



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