潮騒。

さざ波立つ海辺で。












チャコ。















夏。

日差し。暑い!



子供には長期休暇と言う名の
過ぎれば毎年憧れのように走り急ぐ、蝉の鳴く季節は
今とどまってみるとこの時間ほど、怠惰になだらかなものはない。

忘れかけた日差しはやっぱり毎年の記憶より暑いし (どちらかと言えば熱いほど
視線の先では一年ぶりの波が胸騒ぎのようにはしゃいでいる。
砂浜に投げ出した足先を、ささと確かな音をたてながらカニが横切った。

「夏だなあ」

「もう晩夏よ」

声のする方を見上げると、日傘を肩にくっつけてアンナが立っていた。
日傘がくるりと回ると、レースのつくった影が彼女の髪をふわりと横切った。

「いつまでも暑いわね」
「だな」

いや、夏は「暑い」でなく「熱い」んだ。毎年思う。この容赦のない太陽ときたら。
アンナは日傘を畳むと、パラソルの下に寝転がってたオイラの傍らに腰をおろした。
白い太ももまであるパーカーの胸元に、ほんの微かに赤い色が透けているのが見えた。
ああ結局そっちの水着にしたんかと思った。
突然、向こうで騒ぐホロホロや竜の声が、賑やかに響いた。
こんな暑い中ビーチバレーなんて良くやる気になるよな

「今何時だ?」
「二時半ってとこかしら」
「まだ早えなあ」

みんなが帰るって言ってたのは5時だ。
オイラは若干早く扇風機のあるところへ帰りたかった。
のだが・・・今は隣にアンナ。

「お前泳がんのか」
「焼けちゃうでしょ」

一瞬「焼く」が「妬く」に聞こえてどきっとした。
遠くで竜の叫び声。顔面に蓮の放った強烈なアタックを受けたようだ。

「そりゃ、妬けちまうよなあ」
「そうよ。焼けるもの」

気づかず太陽を睨むアンナを傍らに、オイラは体を起こした。

「しょうがねえな・・・日焼け止め塗ってやるよ」
「あるの?」
「ファウストが持ってた」
「やっぱり持ってたのね。あいつ」

パーカーをそろそろと脱いだアンナの身体には、ぴったりとした真っ赤な水着が小さい面積を頼りなく、でも頑固に肌を隠していた。
オイラは掌に出した白い液体を、前に座るアンナの身体に塗りたくっていく。
肌の色素の薄いアンナだけど、日焼け止めの白に比べればずいぶん暖かい色をしているなと気付いた。

腕、それから指先でちょいちょいと顔に。
顎を撫でて、首、肩、後ろを向いて背中、腰も水着のぎりぎりまで塗って、
もう一度前、鎖骨に塗って…
胸元のやわらかい部分に指が触れた時、アンナの口が自分でやるわと呟いた。
おお・・・すまん と呟いて後ろを向けば、
何故か何処か。そっちの方がいけないことのようだった。


さて、日焼け止めで一枚極薄の皮をまとったアンナは、よつんばいになって日焼け止めを遠い鞄の中へ投げ込んだ。
そんな後姿の右の太ももの裏に、伸ばし忘れた日焼け止めのあとを見つけ、てのひらで伸ばしてやりながら。


「じゃ、泳ぐかあ」

「嫌よ疲れるから」

アンナは縮こまって、暑いくせにまたも羽織ったパーカーに首をうずめる。

「浮き輪あるぞ」

ぽいとアンナに手渡して。

「溺れたらちゃんと助けてやるって」














「お」

ビーチボールがぽんと砂の上を跳ねた。
拾い上げようとした視線の先の浜辺に、二人の恋人達。

葉がアンナの手を引いて、波打ち際に足を浸している。
いたずら心か彼が彼女に水をかけると、アンナは顔を覆った。自然にきゃっとこぼれる歓声。
珍しいことにまったく普通の少女のような笑い声をあげる。

「よろしくやってんな」

ホロホロがどこか苦い顔をして

「堂々としてるよね」

まん太が誰よりも見慣れたように

「こそこそされてもアレだけどな」

竜がぼそりと

「つまらん」

蓮が誰より赤い顔で


背中にビーチバレー組の、痛いほど羨望のまなざしを
受けていることを知らずに        (?)
葉はバランスを崩しかけたアンナの腕を掴んで、ほんの少し自分の方へ引き寄せた。のだった。









アンナは片手にしっかりと浮き輪の紐を、もう片方でオイラの手をぎゅっと掴んで、
おっかなびっくり海へ歩みを進めていく。
今更ながら水を弾いていく太ももの白さに、おお、と心が歓声を上げた。
ラバァ素材に覆われた腰つきは女っぽいと言うより子供っぽい。
じれったいのかそそるのかよくわからない。

「海なんて嫌いよ。海草が、嫌」

と言いつつアンナはまた一歩沖へと挑む。
どこまで歩いていけるか、まるで海と戦っているようだ。

「じゃー何で来るんよ」
「あんたが誘ったんでしょ!」

あそっかアンナはオイラのためにこんな格好なんだと気付いていよいよ気分がおかしくなってきた。
足の裏で騒めく砂みたいに。
へそまで波に洗われたところで、アンナは浮き輪を引いて、不器用に身を捩らせると、
ぼちゃんと音をさせて浮き輪の真ん中に腰掛けるようにはまりこんだ。
ついでに、伸ばしたつま先で、勢いを付けるためかオイラの腹をとん、と蹴った。
そうして浮き輪に捕らわれたアンナは、波に揺られてぷかぷかと流れていった。

「おーい、アンナ」

「ついてきて」

わがままなお姫様。

波を口に受けながら、潮の味を感じて、
もう一かき、スイと泳ぐとようやくアンナの浮き輪に手が届いた。
引き寄せるようにして水色の浮き輪に両腕を乗せた。

「快適か?」
「上々ね」

アンナの体が眩しい日差しに照らされて、雫が一つ残らず光っている。
谷間になりきってないアンナの胸の間のくぼみをするっと流れた。
ちぢこまったへそのあたりだけ海水がひたひたと寄せている。
そういえば、真ん中に「恐山」と入っている。アンナが迷ったもう一つの水着。
あれもどきどきさせてはくれるけど、 めったに見れない白いふわふわした腹が、
それじゃあ見れなかった事を考えればうれしい。
水をはじいていく象げ色の肌。畳の上で黒いワンピースをめくり上げる時とはずいぶん違うもんだ。
真夏の野外の日差しだと、そんな色に見えるんだなと思った。

そんな腹に触れる勇気はなく、浮き輪によって二つ折りにされている膝にこっそり手を乗せた。
アンナが途端に肩を蹴る。オイラはその足を掴んで自分の肩に乗せた。
特に意味はなく、もう片方の足もそうすると、オイラはアンナの太ももに挟まれることとなった。
新しい体位みたいだ。
アンナは唇をとがらせたが、不平を言うこともなく、ただ足の指先でオイラの後頭部の髪をいじった。

「見えるわ」

一瞬遠い浜辺に視線を向けて。

「気にすんな」

思い出した。自分の中で渦巻いているこの感情はどうやら、

「オイラ以外なんて」

「バカ」

欲情だ。ギラつく太陽より熱っぽい。
さっそく脳みそが、水の中に引きずり込んだら、誰にも見つからずキスができる
なんて、おかしなこと考えだす。

水の中に片手を沈めると、手でアンナの身体をなぞった。
水着ごしにも尻がやわらかくて気持ち良い。
アンナは首をそらして、空を見上げた。首筋に張り付いた後れ毛が色っぽい。

別に見られてもいいとか
むしろこの愛を見せびらかす優越感とか
あんたに逢うまで知らなかった
変ね

あの日布団の中で、そんなことを呟いた彼女の気持ちが、わかるようなわからないような。
オイラは早く二人きりになりたいけど、もう大した我慢などできそうにないから、
見られてもいっかなという気持ちだろうか。と言ったら、違うわよと一喝された。まあいい。


「…心から好きだぞアンナ」

いつの間にか、アンナの内ももをなめながら。

「チャコでしょ」

おっバレた。
こういうところでつながってると思うんよ。
こうやってよ、
親の決めた許婚のオイラ達なのに、趣味が同じってすげえことだと思うんだぞ、アンナ

「それか、アンナはエリーだな」
「知らない」

知ってるくせに。今、照れた顔したじゃねえか
指先をラバァ生地の間に挟み込んで目を閉じる。
それでも照りつく日差しが、眩しい。
指先をもっときつく、水着と肌の隙間へ沈ませる。底なしのたぶんここが海。だって産まれてくる場所
遠のく意識に暑く、熱くアンナのオイラを呼ぶ声が重なった。
それしか聞こえなくなっていく

「葉」

ぽちゃんとアンナの手が水中から浮かんでオイラの首に巻きついた
そろそろ浜辺からだって見えるだろう、このあからさまなラブシーン。
まあいい。許せよ。だって夏だし。


頭のてっぺんがじりじりと焼かれていく。
対照的に冷たい水と。
あったかいアンナの身体の中も


ああ夏だ。


波の音が遠い






これから、二人きりの沖へ































***

携帯でずっとずっと書いていて、寒くなった今になって完成。
サザンの「チャコ」大好きな曲ですよ。「シンドバッド」も!
夏ですね!違う!

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